『エピクロスの処方箋』読書レビュー

な行

著者:夏川草介

おすすめ度:★★★★★

生かすでも、看取るでもない。

その先にある「第三の医療」を探す物語。

スピノザの診察室に続く哲学×医療小説第二弾

卓越した内視鏡処置技術を持つ凄腕医師として大学病院に勤めていた雄町哲郎。

長い闘病の末亡くなった妹の息子を育てるべく、大学病院を去り、地域病院へと職を移す。

高い医療技術を持ちながらも、医療の限界を感じている哲郎。

終末期医療の患者と向き合いながら、日々思索を重ねている。

不遇の人生を歩みながらも人の力を信じたスピノザの生き方と自分とを重ね合わせ今日も彼は治療を続ける。

スピノザの診察室の読書レビューはこちら

本作のテーマはエピクロス的快楽

エピクロス(紀元前341年 – 紀元前270年)は古代ギリシアの哲学者。快楽を求める快楽主義の哲学を提唱した。彼の求める快楽は今日的な快楽とはイメージが異なり、肉体の苦しみがなく、精神的な悩みのない「心の平穏」を快楽と定義した。質素倹約を旨とした彼の生涯がその哲学を大きく反映している。

その思想を、哲郎は医療の現場で実践しようとする。

様々な選択肢の中からただ生かすのではなく「心の平穏」に繋がるような治療を処方していく哲郎にその思想の深さが感じられる。

教授との邂逅

本作では、前作で出番のなかった因縁の教授が登場する。

病院を去る時に袂を分かった大学病院の絶対権力者。

その権力者・飛良泉教授の父の高難度の手術に友人であり大学准教授の花垣の第一助手として挑む。その難度の高さから二人の高い技量をもってしても成功が約束されない手術。しかし、哲郎は意外な方法でその関門の突破を試みる。

まとめ

卓越した技量を用いたスリリングな手術の様子が描かれる。

しかし、本シリーズはそれでよしとせず、哲学の力を借りた高い思想で医療を超えた幸福を求める。

エピクロス的快楽を序盤で提示しながら根底に流れるエピクロスの精神へと着地していく。どの職業に対しても問われる倫理観。

その倫理観を静かに揺さぶり、読者自身に問いを返してくる。

それこそが、このシリーズの真骨頂だ。

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