『踊りつかれて』

さ行

著者:塩田武士
おすすめ度:★★★☆☆
読みやすさ:★★★☆☆

SNSによる匿名の陰に隠れた漆黒の悪意。
そんな悪意に「踊りつかれた」人達の織りなす悲しい物語。
何気なく書いた一言が、誰かの人生を壊しているかもしれない。
SNSの闇に真っ向から挑んだ長編小説

『踊りつかれて』あらすじ|SNSを隠れ蓑に暗躍する何者かにむけた【宣戦布告】

ある日、インターネット上に静かに落とされた一つの爆弾。
ブログに書き込まれたのはSNSの匿名性を楯に暗躍する悪意たちに対する【宣戦布告】。
【宣戦布告】は二人の芸能人の”生命”を終焉に向かわせた者たちに対するものだった。

その二人とは、

不倫が報じられ、過剰な誹謗中傷にあった売れっ子お笑い芸人・天童ショージ。

週刊誌による行き過ぎた取材により、歌手生命を絶たれた伝説の歌姫・奥田美月。

この二人の”生命”を脅かした83人の名前、年齢、住所、職場、学校などあらゆる個人情報が晒される。
何者かの【宣戦布告】により、次々に人生が狂わされていく人々。
やがて、【宣戦布告】をした人物が特定される。
【宣戦布告】をしたのは音楽プロデューサー・瀬尾。

瀬尾は警察により起訴される。
弁護にあたるのは天童ショージの中学時代の友人であり、弁護士の奏(かなで)。
罪を淡々と受け入れ、味方弁護士である奏に対しても真意を明かさない瀬尾。
事件の真相を探るため、当該芸能人二人と瀬尾の生い立ちを追っていく。

そこで明かされる三人の関係は驚くべきものであり、事件の闇の深さをより感じさせるものだった。

『踊りつかれて』感想|仮面越しの誹謗中傷を考える

SNSの匿名性を武器に何を言ってもお構いなしと言わんばかりの人々を痛烈に批判する物語。

メッセージが届いてほしいと願いながらもSNSに没頭する人達はこの本を手に取らないだろうなという諦めも感じてしまう。

インターネットで起こった出来事であるが故に本質部分が置き去りにされて見えてこない。その見えてこない真実を主人公の奏が掘り起こしていく。

被害者・加害者共に掘り起こされた人達にはそれぞれのストーリーがあり、それを起こした理由がある。人を傷つける前にいったん冷静になって向こう側の顔を思い浮かべられなかったのかという憤りを感じる。

人の不幸を飯の種にする人達は何もインターネットが開発されてから発生したのではない。昭和から平成にかけての週刊誌報道の異常さが描かれていることも本書の特筆するべき部分だ。

いつの時代も技術が悪いのではなく悪いのはそれを悪用する人達である。

メーカー勤務であっただけに人を手助けするために生み出された技術が悪用されるのを見聞きするにつけ悲しい気持ちになる。インターネット・ドローン・AI・原子力等など節度を持って活用すれば人々に無限の力を与える素晴らしい技術。変わるべきは技術ではなく人間。一つの物語としてではなく自制のためのツールとして心にとどめておきたい作品である。

『踊りつかれて』まとめ

インターネットの闇を徹底的に描いた重厚な物語。
誹謗中傷の先にある「取り返しのつかない現実」を突きつけられる。
他人事ではなく、自分の言葉と向き合うきっかけになる一冊。

コメント

タイトルとURLをコピーしました